「けしかける」の語源は、犬に向かって「けしけし」と言っていたことが語源です。
室町時代以前には、人が犬を煽って、対象の人やものに向かわせるときに「けしけし」という声掛けがされていました。
江戸時代には、人に対しても「けしけし」という言葉が使われるようになり、「けしけし」の「けし」と、働きかけるという意味の「かける」が融合し、「けしかける」という言葉が生まれました。
「けしかける」の語源は「けしけし」
「けしかける」は、室町時代以前に犬に向かって使われていた「けしけし」という言葉が語源です。
例えば、犬に虫を捕まえさせる時に「けしけし!」と言ったり、あの人を噛みついて来いという時に「けしけし!」と言ったりしていました。
「けしけし」の「けし」と、働きかけるという意味の「かける」が融合し、「けしかける」という言葉が生まれました。
その後、人を煽って悪さをさせるという意味合いでも使われるようになりました。
・「けしけし」と悪さをし「かける」が融合し「けしかける」となった。
江戸時代に犬から人に対して使うようになった理由
「けしけし」が人に対して使われるようになったのは江戸時代で、人形浄瑠璃で使われていたことが由来となっています。
近松門左衛門の人形浄瑠璃では、「けしかく」という古語がよく使われていました。
「けしかく」は「けしかける」の現代の意味と同じく、人を対象に「そそのかす・おだてる」という意味がありました。
庶民に広く人気のあった人形浄瑠璃で、よく使用されていたことから「けしかける」も人に対して使用されるようになっていったと考えられます。
・庶民に人気の人形小瑠璃がきっかけで「けしかける」が浸透した。
「けしけし」と言って犬に通用していたか?
犬は、「けしけし」という言葉だけでは理解できず、人間の動作とセットで理解していた可能性があります。
そもそも犬は人間の言葉を理解できるわけではないので、言葉の「音」と人間の「手振り」で言われていることを理解していました。
犬に躾や命令をするときは、「わんわん」や「ちんちん」など2音から成る言葉がよく使われていました。
「けしけし」も2音から成るため、犬は自分に何かを命令されていると理解し、人間が指さす方向へと走っていくことができたのでしょう。
・「けしけし」という2音と人間の動作をみて犬は行動していた。
「お手」や「おすわり」を犬が理解する理由
「お手」や「おすわり」は人間が褒めることで、犬は理解していきます。
犬は初めて「お手」と聞いた時、きょとんとしてまったく意味を理解することができません。
しかし、「お手」という言葉と右手を人の手に乗せることをセットで行い、できたら人間が褒めるということを繰り返し行うことで、犬は褒められたいために「お手」の動作を覚えるのです。
これは「おすわり」にも同じことが言えるため、「けしけし」も人間が繰り返し教えながら褒めることで犬たちは覚えていったのでしょう。
・同じ動作を繰り返し褒めることで「お手」や「おすわり」を覚えられる。
「けしかける」と「そそのかす」の違い
「けしかける」と「そそのかす」の違いは、悪さをする対象に直接働きかけるか、間接的に働きかけるかという点です。
「けしかける」は攻撃する対象が明確にあり、その対象に向かって危害を加えるように誰かを仕向けることを指します。
そのため、危害を加えたい相手に本人は直接関わることはありません。
一方、「そそのかす」は、危害を加えたい相手に直接不適切な行為をするように言い寄ったり、だましたりすることを言います。
そのため、犬「けしかけて」特定の人を襲わせることはできますが、言葉を理解できない犬を「そそのかす」ことはできません。
・「そそのかす」は対象人物に直接危害を加えるという意味。
「けしかける」と「そそのかす」は同じ漢字で「嗾」
「けしかける」と「そそのかす」は、「嗾ける」と「嗾す」と書き、どちらも同じ漢字を使います。
また、「けしかける」と同義の「しそう」も「指嗾・示嗾・使嗾」などと書き、どの漢字にも「嗾」が使われています。
「嗾」の漢字の成り立ちは明確なことは分かりませんが、相手に攻撃を仕掛けるという意味合いが含まれていそうですね。
・「嗾」には攻撃を仕掛けるという意味がいがある?